2013/03/08

救急車受け入れ問題に見る認識のズレ


この度、埼玉県で起きた救急車受け入れ不能問題が話題になっていますね。NHKが「たらい回し」との表現を用いて批判を受け、それに応じる形で緊急に、正しくは「受け入れ不能」であるとの医師による訴えを放送するといった事態も起きました。

その番組に電話取材で応じた獨協大の中村幸嗣医師のブログはYahoo!ニュースにも掲載され、話題となりました。


中村ゆきつぐのブログ
救急搬送36回:NHKさん。受け入れ拒否ではなく受け入れ不能です
http://blog.livedoor.jp/dannapapa/archives/3713531.html


もちろん市民の側から一定の批判があることは想像していました。しかしいざSNSでそれらを読んでみると、不思議な事にどこか噛み合わないのです。

おそらくその点に医療者と(批判的な)市民の間の認識の断絶があるものと思いましたので、少しでも溝を埋められたらとまとめてみました。なお、この内容はあくまで一般論であり、今回の埼玉の問題について個別に言及しているわけではありませんのでご理解ください。


ベッドがなきゃだめなの?


「ソファーや廊下でもいいからとりあえず受け入れて急場をしのぎ、その後落ち着いたら転送ではだめなのか?」という意見は多く見ます。しかしそう上手くいくとは限らないのです。

第一に「病院に行って処置を受けられればとりあえずはなんとかなる」と思っていませんか?

重篤な状態で運ばれてきた患者さんでも、病院で適切な処置を受ければ急場をしのげるのかと言われれば、そうとは限りませんよね。

気道確保や酸素投与、あるいは手術によって状態が劇的に改善したとしたら話は別ですが、でき得るだけの処置をしてなお重篤な状態が続くというのは十分考えられることです。

また同時に、二次救命処置の重要性を軽く見ていませんか?

気管挿管をすれば人工呼吸器が必要になりますし、体温、心拍、血圧などの各種バイタルを管理するための装備も必須です。普通このような重篤な患者さんはICUやHCUなどのきちんとした設備と人員の整った部屋で一括管理されます。

(患者さんがこの状態の、一見医師は何もしていないように見えるかもしれません。しかし実際には「差し当たってできる手立ては済ませてある」のであり、患者さんを放置しているわけではないし、また放置していい状態でもないのです。)

これらは厚労省により設置基準が定められており、逆に言えばそれらのベッドで管理できなければ、重篤な患者さんにとって十分な管理とは言えないのです。転院搬送というのもそのような重篤な状態では難しいでしょう。

だからこそ、医師にとってはきちんとした「ベッド」がないとどうにもならない、という話になるのです。

 というわけで、必ずしもその場でなんとか処置出来ればいいというものではないのです。「とりあえず◯◯して」ということの難しさがほとんど伝わっていないのではないかと思います。



手術が必要な患者さんこそ重篤?


「緊急手術が必要ならともかく、そうでないなら受け入れはそう難しくないのでは?」という意見もあります。

「これはいかん、緊急手術だ!」と大慌てで手術を受けなんとか命拾いする、というのはドラスティックでいかにも「救急の現場」という感じですよね。

しかし緊急に手術が必要な患者さんというのは、そうしなければ死んでしまうのは確かなのですが、手術適応にならない患者さんの方がむしろ大変な場合もあるんです。

 手術適応のある患者さんの場合、必要なことはシンプルで、重篤な状態に陥った原因を取り除けばとりあえずそれ以上悪くなることはないわけです(全身状態が悪化しすぎて手遅れになることはあれど)。

しかし手術適応のない患者さんは基本的に薬物療法に徹することになりますから、本当に重篤な場合は数日もたせられても姑息的な治療にしかならないことも少なくありません。

そもそも手術でなくとも命に関わる患者さんには当然かかりきりになるわけですから人員は必要です。医師だけでなく看護師も必要です。ですから、緊急手術が必要ないからといって容易に受け入れられるものでもないのです。

この辺もよく考えれば当たり前のことではあるのですが、意外に認識のギャップがある気がします。



相手の内心を批判しない


上に書いたことにとどまらず、とかく内と外では見えるものが違います。それをすりあわせていくうえで、本当はどこに問題の根幹があるのかわかってくる。しかし外からの意見には重要な指摘も多くある一方、それが結局人格の問題だというなら強い反発を免れないのは当然のことだと思います。

 つきなみですが、結局はお互いにどういう問題が隠れているのか情報を共有すること、その橋渡しが必要とされているのだと思います。今一番の壁は、すでに多くの医療従事者がマスコミにその役目を期待していないことだといえるでしょう。

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